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イギリス史上初の女性首相、マーガレット・サッチャーの半生を描いた作品です。
原題は「The Iron Lady(鉄の女)」。 それよりも、アルツハイマーになったとされる晩年の彼女が、幻想とオーバーラップした回想の中に、夫との関係を浮かび上がらせる、極めてドメスティックなドラマだといったほうが正確です。 さらに、本来的に男性中心主義の英国社会にあって、最高権力者にまで昇りつめる彼女の想像を絶する孤独もまた、老いの孤独と重ねて描き、甘っちょろいホームドラマの雰囲気は避けようとしているようにも見えました。 ですが、それらがどれも中途半端で、だからそれで一体何が云いたいの?って感じなのです。 正直云って、ちっとも面白いとは思わなかった。 どうもアンクルはこういうメジャー系の作品は苦手ですね。 ただ、サッチャーになり切ったメリル・ストリーヴの演技は、凄いのひと言に尽きます。 ちょっとしたしぐさや目の動きにまで神経を行き渡らせて、まさに鬼気迫る演技です。 ずっと昔、イーストウッドと共演した「マディソン郡の橋」で、さえない田舎のオバサンが次第に綺麗な女性に変身していくさまを見せつけられて、その演技力に感心したことがありましたが、今回はそれ以上に圧倒されます。 文句なしのアカデミー主演女優賞… 見るべきはその演技だけ、といっても過言ではない映画です。 彼女の推し進めた自由主義政策は、一時のカンフル剤としての効果はあったかも知れませんが、今となっては、あれは失政だったというのが大方の見方でしょう。 特に許せないのは、「ゆりかごから墓場まで」と賞賛された社会保障制度を、経済優先の名の下にグチャグチャに壊したことです。 おかげで英国は今、永くゆるぎなかった社会福祉先進国の座を、ライバルのフランスに完全に奪われてしまう体たらくです。 サッチャーの人間性の一端を垣間見せる場面もあります。 それは、一律の税金制度を導入すべきかどうかを議論するところでした。 反対の声が多いと諭す周囲に対して、彼女はこう言い放つのです。 「私は上流階級出身ではなく、貧しい商家の娘から、自分の努力でここまでやって来た。みんな『やれば出来る』はず。何が不満なの?」 勝ち進んで来た人生を自負する彼女は、自分自身だけを基準にしてはばからず、それがいかに他人を傷つけてきたかということなど一顧だにせず、ただ一刀のもとに斬り捨てるのです。 何という傲慢さでしょう。 邦題では「鉄の女の涙」などと、センチメンタルなウケを狙ったようですが、おそらくこの人は自分のためにも他人のためにも決して涙など流さない、文字どおり冷たい「鉄の女」なのだという印象だけが残りました。
by anculucinema
| 2014-11-27 00:11
| 洋画
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