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2015年カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したハンガリー映画。
強制収容所に送り込まれたユダヤ人たちの姿の断片を通じて、大量殺戮が行われていた収容所の実態をリアルに描き出した問題作。 1944年10月、ハンガリー系ユダヤ人のサウルはアウシュビッツ強制収容所で、ナチスから特殊部隊<ゾンダーコマンド>に選抜され、次々と到着する同胞たちの死体処理の仕事を強いられていた。 ある日、ガス室で息子と思われる少年を発見した彼は、直後に殺されてしまったその少年をユダヤ人としてきちんと葬ろうとする。 彼はユダヤ教の教義に基づき、ラビを探し求めて2日間収容所内を駆けずり回る。 35ミリの小さな画面サイズ。 カメラは終始主人公サウルに密着して、限られたとても狭い視野の中で映画は進行します。 全編にわたって、彼以外の周囲の状況はピンボケで、どこをどう動き、そこに何があるのかもはっきりと判らない。 それだからこそ、ボンヤリと映る大量の裸の死体らしきものや、ガス室らしき扉の向こうから聞こえる絶叫などに、アウシュビッツの内部がどんな雰囲気であったか、とてもリアルに、かつ恐怖感を伴って鮮烈に迫って来ます。 サウルは少年を見つけたときから、まるで偏執狂のように、彼を弔うことに異常なこだわりを見せます。 その鬼気迫る姿は観るものの感情移入を拒みます。 しかし、生き延びることさえ過酷な状況で、なぜ彼はそこまで死者の弔いにこだわるのか?・・・ この少年が彼の息子というのもかなり曖昧だと、周りの者たちの言葉の端々から浮かび上がるというのに・・・ <ゾンダーコマンド>といえども、一時的、強制的にナチスの労務を肩代わりさせられているだけで、いずれは同胞たちと同じように処分される運命です。 だが彼らはナチスの情報にも近い位置にいるので、その間隙をついて集団逃亡しようと常にチャンスを伺っていました。 サウルもその気はないのに、ラビを探し求めるうちにいつのまにかその逃亡劇に巻き込まれてしまいます。 そこから物語はラストのクライマックスに向け雪崩のように崩れ落ちていきます。 すべてを失い逃亡した先の隠れ家で、それまでずっと無表情だったサウルがチラリと見かけた現地の金髪の少年の姿に、はじめて何ともいえない笑みを浮かべます。 その瞬間、彼が弔いにこだわった理由が解る気がしました。 何千人もの人間が流れ作業として殺戮されるアウシュビッツは、まるで殺人工場そのもの。 そこで殺されるユダヤ人たちは、ただ単に『部品』と呼ばれるだけです。 そんな人間性の崩壊した状況であればこそ、死者を丁重に弔うことで、サウルは人間としての尊厳を守り通そうとしたのではないか? その少年が彼の息子であるかどうかは意味のあることではない。 民族が抹殺されつくしかねない極限の中で、本来なら豊かな未来があったであろう同胞の少年を弔うことで、ユダヤ人の生きた証しを何とか残したかったのではないか? 最後の彼の微笑みは、それを見届けた安堵の表情ではなかったか?・・・ そんな風に感じました。
by anculucinema
| 2017-03-18 17:22
| 洋画
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