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19世紀末のイタリア、トリノ。
ドイツの哲学者フリードリッヒ・ニーチェは、広場でムチ打たれる馬車馬に駆け寄り、その馬の首に泣きながら抱きつき、その場に昏倒しそのまま発狂したと伝えられています。 ハンガリーの鬼才タル・ベーラ監督がこの逸話に触発され、その馬と飼い主のその後を追った作品です。 監督自身、これが“最後の監督作”と公言し、飼い主の農夫とその娘の過酷な日常生活を、美しいモノクロの長廻し映像で捉え、人間の生と死、その尊厳を問いかけます。 ベルリン国際映画祭で審査員特別グランプリと国際批評家連盟賞を受賞しました。 止むことを知らず吹き荒れる強風、石造りの質素な家、疲れ切った馬、じゃがいもだけのみすぼらしい食事、井戸からの辛い水汲み… 貧しく疲れ果てた単調な生活が繰り返されます。 しかし、永遠に続くかと思われるその生活も、実は刻一刻と変化しているのです。 繰り返されるこの日常的な行為が、カメラのアングルを替え、役者の表情や反応も微妙に替える演出で、決して同じ時間の流れではないと強調されます。 1日目、ついに馬が動こうとせず、荷運びの仕事に出られなくなってしまいます。 2日目、強風が町を吹き飛ばし壊滅させ、そしてそれは我々人間の愚かな行いの報いで、神もすでに死んだと息巻く男が、酒を求めて現れます。文字どおりニーチェを連想させます。 3日目、男と女の一団が通りがかり、勝手に井戸の水を飲み尽くし、一緒にアメリカに行こうと騒ぎ立てます。強欲資本主義そのものを象徴するかのようです。 4日目、突然井戸が涸れてしまい、じゃがいもを茹でることも出来なくなります。 5日目、この場所から逃れようと試みるも叶わず、そのうち吹きすさんでいた強風も嘘のように止み、同時に昼間だというのにあたりは真っ暗となり、まるで死んだような静寂が訪れます。 19世紀末の話なのに、何だか現在の世界そのものだと感じました。 アメリカではごく一部の人間が富を独占し、ヨーロッパでは例を見ないほど国家財政が疲弊、中東では次々と民衆の反乱が巻き起こり、そしてどこかの国では原発が崩壊して危機は目の前に横たわっている。 近代化された文明社会だとばかり勘違いしていたけれど、ひと皮むけば、みすぼらしく貧しく瀕死の状態にあえぐ現在の世界。 そして、その真っ只中になす術もなく立ち尽くす私たち。 私たちは一体どこから来て、どこへ向かい、そして何をしようとしているのか? 見ている間、ずっとそんなことを考えていました。
by anculucinema
| 2014-12-17 10:49
| 洋画
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